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zoom RSS 堀江敏幸【河岸忘日抄】with ナラ・レオンのボサ・ノヴァ

<<   作成日時 : 2007/01/31 15:33   >>

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「ためらいつづけることの、なんという贅沢」、か・・
作品の方が、受け手のタイミングを窺っているということがあるなら、それは、この前の日曜、私に対して明らかに姿を見せた。

堀江敏幸著の「河岸忘日抄」そして、Nara Leao(ナラ・レオン)"DEZ ANOS DEPOIS"(邦題「美しきボサノヴァのミューズ」)
どちらも、ふと手に取り、受け入れようとし始めたけれど、途中で放ってしまっていたもの。
それに、再び手がのびて、今度は吸い込まれるように染みてきた。


画像気分が沈んだまま回復の兆しを持てないままの枕元に、真っ白な装丁の、坦々とした展開を予想させていた、その本を引き寄せることを思いついた。
少し読んで、自分の気持ちが、今、やけに、その文面に沿うことに快いのに驚きつつ…今度はBGMが欲しくなる。
思い浮んだのは、店先に「雨の日に聴くボサ・ノヴァ」と書かれて置かれていた、このCD。
ボサ・ノヴァという音楽ジャンルに対するイメージとは真逆のコピー、さらには寂しそうなジャケ写。あまのじゃくな私の気を引いた代物。

CDの歌い手、ナラ・レオンという女性は、フランス貴族の血を引くブラジル生まれであり、なんと、彼女のサロンにカルロス・ジョビン、ジョアン・ジルベルトなどが集まったことからボサ・ノヴァという音楽が生まれたとも言える存在の方であったそうだが、その後傾倒したブラジルの伝統音楽やサンバなどでメッセージ色を濃く表し、当時の軍事政権から圧力を受けてフランスに亡命。
その頃('71)に発表されたのが、本作品とのこと。
ミック・ジャガーとのロマンスもあった方だとか…

本の舞台はセーヌ河岸、しかしながら、私の中に広がる世界は南欧の岸だった
。その隔たりを埋めるようにサラサラと、ボサ・ノヴァのお決まりのリズムに乗る彼女の落ち着いた澄んだ声が流れ続け、自然と、本の世界と私の頭の中のイメージを結び付けてゆくようだったが…さらには、彼女自身の波乱に富む生き様が、彩りを添えてくれていたかもしれない。
置き去りにしかけていたCDに、こういう聴き方(役割)があったことに、喜びを感じてしまう。


堀江敏幸という人の本に触れるのは2作目、谷崎潤一郎賞、木山捷平文学賞受賞作品を収録する「雪沼とその周辺」が良かったから…(それも、装丁買い…笑)
しかし、短編で構成された、「雪沼〜」とは違って、「河岸〜」には、こちらが欲しがっている鋭い考察に至るまでの過程が、非常に長く、しかも、気が抜けないほど深い(深みというのは、この人のどんな作品でも変わらないはずだけれど…)
つまり、美しい文体に浸ってゆらゆらと時間をもてあそぶ時間と、それが
どういう結末に結び付くのか?という高まる気持ちを抑え続ける時間…
私の普通の生活の中では、前者を楽しむよりも、後者にジリジリとした忍耐を強いられてしまうようなのだった。
例えば、それは、いつからか、村上春樹の読み物よりも、村上龍の書く物を好むように変わってしまった私の暮らし方と相通ずるものがあると思う。
そういうのが、日曜日に、一時的に外れた。
たぶん、何も考えられない心に、単純に文章をたたみ入れることが快感だった…そんな気がする。

ただ、基本的に、この物語り中の主人公の考えが、私の性に合っているということがなければ、こうは行かない。
だから、特に、気をそがれることもなく、子細のわからないことは外野に置きつつ、その思考の海にはまって、その波に身を預け続けることができる。

あくまでも静かに問い掛けられ、提示される言葉に、時々、どきりとする。
例えば、こんな感じ。



◇(豆電球の実験を取り上げて)
 並列でよいと得心するためには、光量が変わらないという真実を肝に銘じておく必要がある。現状維持の怖さは、その真実をまがいものの真実と取りちがえて、いっさいを台なしにしかねない点だ。ほんとうのことを見切る力がなければ、結果的に直列と同じ愚を犯すことになる。


◇個性は、他者の似て非なる個性と、静かに反応するんです。


◇自信は簡潔さを産む。


◇そう、立ち止まって考えるべきは、真実それじたいの捏造ではなく、ありうべき真実との関係において、正しく夢見ることなのである。


◇風は永遠に循環する。ある者の不幸はべつの者の幸福を呼び、またある者の幸福はさらにべつの者の不幸を牽引する。孤独の「ような気がする」ことに引け目を感じる人間もいれば、孤独であることじたいに苦しむ人間もいる。


◇この多くを語らず、情報をなにひとつ与えてくれないところにこそ「文学」の神秘があり、読書や批評が純粋な「解釈学」とちがう秘密があるのだという。


◇老人にあって彼に欠けていたのは、直列式の思考ではなく、他者にたいして究極的には斜に構えたりしない潔さだった。


〜以上、すべて「河岸忘日抄」からの引用



「ためらいつづけることの、なんという贅沢」というのは、この本の帯に書かれている言葉。この本を手に取る一つの動機となったが、あらためて、この本を読もうとした時には、障害となっていた。
私みたいな人間が「ためらい」を肯定してしまったら、『後がこわいな』と思ったから(苦笑)
けれど、そのコピーのまろやかな響きとは違い、この本の中で言う「贅沢」というのは、決して軽やかで、綺麗なものではない。
多くの人達が目をそらして行き過ぎることに、想いを留めてしまって、個人の信念のもとで、深くまで降り、想いを巡らし続け、次第に確信となって、時間を掛けて身に染み入ってゆく過程。

そして、
おそらく、誰の心にもある「こだわり」を丹念に言葉や文字を選んで、表している…そんな文章の産みの苦しみを、すらすらと読み下してゆくこと自体も贅沢なんだろう。



まぁ、こんな書き方ではわからないだろうから、↓に読売の小説賞の選出コメントを引用

---
堀江 敏幸 「河岸忘日抄」

無為のロマネスク 実現

 無為を小説に書くのはたいへん難しい。表むき何もしてないように見える生活の内実を、どんなふうに語ればよいか。というより、そもそも語ることができるものなのか。

 「河岸忘日抄」は、その難関をあざやかに通りぬけてみせた。難しい試みに挑む大胆な冒険であるのをよく承知しながら、作者が勢いこんだ構えなどいっさい見せず、むしろ静謐(せいひつ)さを感じさせる筆致を最後まで崩さないのがすばらしい。表面の柔構造の内側に、なにか強靱(きょうじん)なものが秘められている印象は、そこから来るにちがいない。

 パリ郊外、セーヌ河の岸に繋留(けいりゅう)された船。働きすぎた、暫(しばら)く日本を離れて「ぼんやり」過ごそうと思いたって、その動かない船でひとり暮らしする人物。現代の無為はそういう形をとる。だが、肝心なのは、読書や音楽に明け暮れ、いわば何をするでもない日々の細目を語るうちに、無為がしだいに充実した生活の色彩を帯びることである。この小説の本当の妙味は、そのあたりの機微にある。

 ここには無為のロマネスクが実現されている。消極的ではなく積極的な無為のロマネスクが。そして現代の喧騒(けんそう)に流されまいとする作者の夢が、このロマネスクを支えるのである。(菅野昭正)
---

【トピック】
大谷能生さんという方が、この「河岸忘日抄」を朗読し、それに自ら作・編曲を行ったサウンドをミックスした独自の録音作品を2006.12.13にリリースされているそうです。『興味深い…』 →記事


* - * - *

最後に「美しきボサノヴァのミューズ」の収録曲
ボサ・ノヴァは詳しくありませんが、定番がずらりと揃ってる感じです。
私は「ボニータ」が一押し。

01. インセンサチス
02. ワン・ノート・サンバ
03. 白と黒のポートレイト
04. コルコヴァード
05. イパネマの娘
06. ポイズ・エ
07. 想いあふれて
08. ボニータ
09. あなたと私
10. フォトグラフ
11. オ・グランヂ・アモール
12. エストラーダ・ド・ソル
13. ポル・トーダ・ミーニャ・ヴィーダ
14. ジザフィナード
15. 私の恋人
16. まじめな青年
17. ヴォウ・ポル・アイー
18. 平和な愛
19. サビアー
20. メディテーション
21. 春
22. まなざし
23. いまひとたびの
24. ヂマイス

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
カカオさんは今、
乾いたスポンジのやうに
吸収の時なんすね!

コノ本は読んだ事ないですけど
ナラは僕も大好きです。

僕はナラの
19. サビアー
が大好きです。
ジョビンの原曲よりも好きかもしれない・・

ジョビンは鳥になりたかったし
武満徹はクジラになりたかった・・・

かかおさんは何になりたいですか?
terumin
2007/01/31 19:38
>多くの人達が目をそらして行き過ぎることに、
>想いを留めてしまって、個人の信念のもとで、
>深くまで降り、想いを巡らし続け、次第に
>確信となって、時間を掛けて身に染み入って
>ゆく過程。

素敵な表現ですね。ストンと、落ちました。
ナラのこのアルバムは、彼女の作品で最初に買った1枚です。

音楽って、聴くタイミングで感じ方が全然異なるものですよね。
でも、逆説的ですが、同時に時空を超えて、聴き込んでいた頃の、艶かしい感触というか、日々の彩り、その時の自分を一気に現出させもする、不思議なものですよね。

これを聴くと、もっと不自由で純粋な大学生に戻ります・・・
J
2007/01/31 21:36
ナラのサウンドはとっても好きです。
今は亡きエリスレジーナと同様、ぼくの尊敬する歌手の一人。
エリスとは違って、コンサバな歌い方をするナラはまず上品。
そして繊細。
bonitaはジョビンの名作ですよね。。
ほんとうに好きな曲です。
あーナラの生を見たかった。。
もう一度。。
いい人と思う人はなかなかいないものですね。。
isa
URL
2007/02/01 04:54
☆teruminさんへ

>19. サビアーが大好きです。

これもいいですよね。ジョビンの柔らかい甘い声も魅力的ですが、ナラの抑制の効いた声が頭の中で各々のイメージを膨らませてくれる気がします。

鳥、クジラですか…私はどうでしょう?もっと無機質なものかもしれません。誤解を恐れずに言えば、海とか(苦笑)
 

☆Jさんへ

>ストンと、落ちました。

うっ、その言葉に、感動。

>同時に時空を超えて、聴き込んでいた頃の、艶かしい感触というか、日々の彩り、その時の自分を一気に現出させもする、

そうそう。これが音楽の素晴らしい特性の一つだと思います。(知らずに)一緒に過ごしていた音楽の懐に、思い出や記憶は静かにずっと眠っているのです、きっと。
「純粋」…いい言葉です。


☆isaさんへ

エリスレジーナさんもボサ・ノヴァを歌われた方なのですね?略歴を見ると、人生の流れ方において、ナラとダブるものを感じますね。

>あーナラの生を見たかった。。

お二人とも短命ですものね。残念です。
 
Cacao
2007/02/03 14:26

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